HiZ-GUNDAM ( High-z Gamma-ray bursts for Unraveling the Dark Ages Mission ):ガンマ線バーストを用いた初期宇宙探査計画

HiZ-GUNDAMとは

 HiZ-GUNDAM は「ガンマ線バーストを用いた初期宇宙・極限時空探査」を主目的として、JAXA の2017年度の公募型小型ミッションコンセプトに提案し、候補ミッションのひとつとして採択されている。ガンマ線バーストや重力波源の電磁波対応天体の探査を広視野高感度のX線モニターで行い、同衛星プラットフォームにある可視・近赤外線望遠鏡で対応天体候補の検出および追観測を行う。坂本研は主に広視野X線モニターのX線集光系の開発を行っている。

HiZ-GUNDAM の目的

HiZ-GUNDAM は6台搭載予定の広視野X線モニターで 1.2 ステラジアン (全天の約1/10) の空を一度に監視することで、いつどこで起こるかわからないガンマ線バーストを始めとする突発天体を発見し、その到来方向を決定する。その後、その方向へ衛星の姿勢を変更し、衛星に搭載されている可視・近赤外線望遠鏡で即座に追観測を開始する。可視・近赤外線望遠鏡は4色同時に測光できるため、その測光結果から突発天体が宇宙遠方で起こった突発天体かの判断が可能となる。

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(左) HiZ-GUNDAM の見た目、(右) 広視野X線モニターの1ユニット

広視野X線モニター

 HiZ-GUNDAM では、ガンマ線バーストの観測手段として広視野X線モニターが搭載される予定である。この広視野X線モニターには、Lobster Eye 光学系と呼ばれる集光系 と CMOS イメージセンサ(相補性金属酸化膜半導体 (Complementary Metal Oxide Semi- conductor) イメージセンサ)から構成されている。
 現段階では、一つ のモジュールに 4 × 4 計 16 枚の Lobster Eye 光学系を集光系として設置し、その下に一 枚の大面積 CMOS イメージセンサを焦点面検出器として設置する。更に四つのモジュー ルを 1 ユニットとして、合計 6 ユニット 24 モジュールという設計となっている。 これらによって、今までの X 線望遠鏡では実現が難しかった、広視野かつ高感度な望 遠鏡が実現可能となる。

Lobster Eye光学系(LEO)

 Lobster Eye光学系は 20ミクロンの四角い穴が無数に空いており、Lobster Eye 光学系の前方からきた光が小さな穴の壁に反射し、焦点面で集光する。特に、2回壁に当たった 2 次反射は十字の真ん中に集まる。 このように、Lobster Eye 光学系をうまく使う事で、非常に広い範囲の X 線を焦点面に集 める事ができる。

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(左): 40 mm x 40 mm x 1.2 mm (R=600 mm) の Photonis社製のLEO。この1枚の MPO で 約4° x 4°の視野を持つ。(中央) LEO 表面の拡大図。20 um 角の四角い穴が無数に空いているのがわかる。(右) X線を LEO に照射し、取得した集光イメージ。LEO では点に集光せず、十字に集光する。

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CMOSイメージセンサ

 CMOS イメージセンサは撮像素子のひとつで、ビデオカメラ、デジタルカメラ、光 検出器などに広く使用されている半導体素子である。現在の X 線撮像素子の主流は X 線 CCD(Charge Coupled Device) であるが、X 線 CCD は-100° C まで冷却する必要があるに対して、CMOS は常温でも動作可能である。そのため、HiZ-GUNDAM の広視野 X 線モニターでは、CMOS イメージセンサを使用する事をベースラインに開発を進んでいる。

  • CMOSイメージセンサの性能評価

CMOSイメージセンサという光検出器にX線を当て、X線の検出効率やエネルギー分解能について調べるという実験を行っている。

CMOS-1.png

この実験を行う目的としては、CMOSイメージセンサが
・HiZ-GUNDAMの広視野X線モニターの焦点面検出器として利用できるか
・HiZ-GUNDAMが目標としている0.4〜4keVのエネルギー帯域のX線を検出できるか
CMOSイメージセンサは温度や微量の光にとても敏感であるため、恒温槽という温度が一定の暗室に置いて実験を行う。
CMOSイメージセンサの上にFe55というX線源を置き、200回シャッターを切ってセンサのどの位置にどれほどのX線が当たったかをカウントする。このデータを解析し、X線源が出す2つの特徴的なエネルギー帯(5.9keVと6.4keV)のスペクトルを検出できているか、検出効率やエネルギー分解能の観点から調べることで、性能評価を行っている。

X線ビームラインの整備

 去年 2019 年5 月末に、宇宙研 ISAS の 30M X 線ビームラインを使って、一枚の Lobster Eye 光学系の集光性能を、二週間弱をかけて坂本研究室のメンバーで行った。この実験で Lobster Eye 光学系の焦点距離は仕様書からズレがある事が判明した。HiZ-GUNDAM では合計 300 枚ほどの Lobster Eye 光学系が必要となるため、その一枚一枚に個性があるとなると、全ての Lobster Eye 光学系に性 能評価を行う必要がある。しかし、宇宙研ISASの30M X線ビームライン実験装置は我々の専用品ではなく、長時間の利用は不可能である。そのため、坂本研究室は自分の実験室に小型ではあるが、8m の X 線ビームライン実験装置を設置したいと考えている。
 宇宙から到来する光は無限遠方から飛んでくる平行光だが、その平行光を実験室で再現するためにX線ビームラインの整備を行う。
 真空チャンバーという真空状態を再現できる装置の中に集光器と検出器を置き、ビームラインと繋げる。 X線源から出る光を長さ8mのビームラインに通すことで、光が検出器に対して垂直に入るようになり、宇宙での光が無限遠方から飛んでくる状況を再現できる。ビームラインを通して1分角の精度になった光を集光系であるLobster Eye光学系で集め、CMOSイメージセンサで検出する。このようにしてLobster Eye光学系の性能測定を行うことがX線ビームラインの整備の目的である。